燃料と燃焼

ここからはボイラーの運転に重要な燃料と燃焼の学習です。

LESSON53 燃料概論

燃料とは、空気中で燃焼しやすく、燃焼により生じた熱を利用できる材料のことです。
▲燃料の条件

ボイラーの燃料に適しているものに下記の条件があります。
・調達が容易で、量が豊富であること
・貯蔵及び運搬が容易であること
・取扱いが容易で、安全かつ無害であること
▲燃料の分類

ボイラーの燃料は大きく分けと、液体燃料、気体燃料、固体燃料になります。この他に特殊燃料といわれるものがあります。

燃料の分類


※古タイヤは硫黄分を含んでいますので、大気汚染防止のために、脱硫する必要があります。
▲燃料の分析と特性

燃料の分析には下記の3つの方法があります。

○元素分析
液体燃料、固体燃料の炭素、水素、硫黄を測定し、100からそれらの成分を差し引いた値を酸素として扱う元素分析が用いられ、質量(100%)で表示されます。
○工業分析
石炭等の固体燃料を恒湿試料又は気乾試料として、水分、灰分、揮発分を測定し、残りを固定炭素として質量(%)で表示することを工業分析といいます。石炭の分類、その燃料特性を表わすものとして測定される。
○成分分析
気体燃料には、メタン、エタン等の含有成分を測定する成分分析が用いられ、体積(%)で表示されます。

▲発火点(着火温度)と引火点

燃料の燃えやすさの尺度には、発火点と引火点があります。

○発火点(着火温度)
空気中で熱せられた可燃物が、自然に燃え出す最低温度をいいます。燃料が加熱されて酸化反応によって発生する熱量と、外気に放散する熱量との平衡によって決まるもので、燃料のおかれた条件によって変わります。
○引火点
液体燃料の可燃性蒸気に点火して燃え出す最低温度をいいます。引火点の低い高いにかかわらず、加熱、貯蔵するときは、火災防止に細心の注意をはらわなければなりません。

液体燃料の引火点


○発熱量
燃料を完全燃焼させたときに発生する熱量を発熱量といいます。
[発熱量の単位]
液体燃料、固体燃料の場合は質量1kgを完全燃焼させて生じる熱量で、単位はMJ/kgで表わします。
気体燃料の場合は標準状態(温度0℃、又は絶対温度273k、圧力0.1013MPa(標準大気圧)の状態)で体積1m3を燃焼させて生じる熱量で、単位はMJ/m3Nで表わします。

発熱量の表示は同一燃料で、下記の2通りあります。
[高発熱量]
水蒸気の潜熱を含んだ発熱量で、総発熱量ともいいます。
[低発熱量]
高発熱量より水蒸気の潜熱を差し引いた発熱量で、真発熱量ともいいます。高発熱量と低発熱量との差は、燃料に含まれる水素及び水分によって決まります。

つぎはLESSON54 液体燃料を学習します。

LESSON54 液体燃料

ボイラーに使われている液体燃料のほとんどは重油です。一部に灯油、軽油等が使われています。原油は重油、軽油、灯油の原料で、太古の動植物が水中に沈積されて生成したものです。地中から採油したままで精製していない石油のことをいいます。日本国内では原油の生産は多少ありますが、大部分は東南アジア、中東等から輸入されています。原油から揮発油(ガソリン等)、灯油、軽油等の軽質分が分溜されます。残渣分※に軽油を加えたものが重油になります。

※残渣とは、ろ過した後の残りかすのことです
▲液体燃料の特徴

ボイラーに使われる液体燃料は、固体燃料に比べ、下記のような長所があります。

・品質がほぼ一定で発熱量が高いこと
・輸送、貯蔵、計量が容易であること
・貯蔵中の変質が少ないこと
・灰分が少ないこと
・燃料操作が容易であること
・少ない過剰空気で完全燃焼できること

液体燃料は大部分が輸入のため、産油国が限定され、価格の高低や入手の難易等、輸出国の情勢に影響される等の短所もあります。ボイラー運転に与えるさまざまな障害もあります。
▲重油の性質

ボイラーに使われる液体燃料の代表は重油です。重油は動粘度によりA重油(1種)、B重油(2種)、C重油(3種)に分類されます。重油にはさまざまな性質があり、それを理解することで効率的、かつ安全に使用することが大切です。

重油の分類表


○密度
燃料用重油の密度(15℃)は0.84〜0.96g/cm3です。重油の密度が小さいほど単位質量当たりの発熱量が大きく、粘度が低い傾向があります。その数値により重油の性質は下記のようであることがわかります。
・A重油は密度が小さく、単位質量の発熱量が大きい
・C重油は密度が大きく、単位質量の発熱量が小さい
重油の密度は温度により変化します。例えば温度1℃上昇するごとに密度は約0.0007g/cm3減少します。重油量の計測は体積測定と平行して温度を測定し、密度により標準温度の体積、あるいは質量に換算する必要があります。

○引火点
重油の引火点は規格で60ないし70℃以上となっており、平均では100℃前後です。密度の小さい燃料油は引火点が低くなっています。

○粘度
重油の輸送、バーナノズルの噴霧状態に大きな影響を与える粘度の高低は、適切な状態にすることが大切です。粘度の高い重油の輸送は困難ですし、噴霧状態が悪くなります。重油の粘度は、温度が高くなると低くなります。B重油やC重油は予熱して使用することが一般的です。
予熱温度は適切にすることで、重油の噴霧状態を良好にして、燃焼効果が増しますが、予熱温度が高すぎると、燃焼効率を悪くし、障害等も引き起こします。一般的に密度の大きい重油は粘度が高くなっています。

○凝固点と流動点
凝固点とは、低温になって油が凝固する最高温度のことをいいます。流動点とは、油が冷却したときに流動状態を保つことができる最低温度のことをいい、凝固点より2.5℃高い温度をいいます。劣質のものは18℃くらいのものもあります。流動点の高い油は、予熱、配管の加熱、保温を行なって、流動点以上にして取り扱うことが必要です。

○比熱※
重油の比熱は温度、密度によって変わりますが、50~200℃における平均比熱は約2.3kJ/(kg・K)です。

※比熱とは、物質1(グラム)の温度を1℃上げるのに要する熱量

○発熱量
重油の発熱量は固体、気体燃料に比べて変化は少ないのですが、密度により多少変わります。密度の小さい重油は質量当たりの発熱量が大きくなります。

重油の発熱量


○残留炭素
残留炭素とは不完全燃焼から生じる、燃え切らない炭化物をいいます。C重油の残留炭素分は通常7~13%です。残留炭素が多いと、バーナ燃焼が不調のときに、ノズルチップ(噴霧孔)周辺、バーナタイル等に炭化物や未燃炭化物が付着します。残留炭素分が多いほどばいじん量は増加します。

○水分とスラッジによる障害
重油は固体燃料と比べて、水分、スラッジの量は非常に少ないのですが、精製過程、輸送中、貯蔵中等に混入することがあります。水分が多いと、下記のような障害を起こします。
・熱の損失を招きます
・息継ぎ燃焼を起こします
・貯蔵中にスラッジを形成します


[スラッジによる障害]
・弁、ろ過器、バーナチップをふさぎます
・ポンプ、流量計、バーナチップを摩耗させます

[水分、スラッジによる障害を防止するための対策]
・水分や異物の混入を防ぎます
・油タンクのドレン抜きをきちんとすること
・ろ過器の清掃をすること

○灰分
重油の場合、灰分の量は石炭に比べて非常に少ないです。灰分はボイラーの伝熱面に付着して、伝熱を妨げます。

○硫黄
重油の場合、燃焼によって下記のような害を発生させます
・大気や雨水を汚染し、環境汚染の原因となり、人間の健康を害します
・ボイラーの低温部に接触し、低温腐食を起こします
▲重油の燃焼性と選択基準

○重油の燃焼性
重油は一般的にバーナで霧化して燃焼させます。安定した霧化を得られるように、粘度の高い重油を予熱して、粘度を下げ、水分、その他のスラッジを取り除くことが必要になります。

○重油の選択基準
重油を選ぶ場合のポイントは下記の事項があります。
・品質が一定で、貯蔵中変質しないこと
・密度、粘度が適正であること
・水分、その他のスラッジが少ないこと
・硫黄分、窒素化合物が少ないこと
▲重油の添加物

重油の燃焼を促進したり、さまざまな障害を取り除くために添加剤があります。主な添加剤とその働きは下記のようになります。

○燃料促進剤
触媒作用によって燃焼を促進し、ばい煙の発生を抑える働きがあります。

○水分分離剤
油の中に乳化状で存在する水分を凝集して、沈降分離する働きがあります。

○スラッジ分散剤
分離沈殿するスラッジを溶解、または表面活性作用によって分散させる働きがあります。

○低温腐食防止剤
燃焼ガス中の三酸化硫黄と反応して、非腐食性物質に変化させます。同時に燃焼ガスの露点※を下げて、低温部の酸腐食を防止します。
▲軽油と灯油

中・小規模ボイラー、点火用バーナに用いられるのが軽油と灯油です。重油に比べて、価格は高いのですが、燃焼性がよく、硫黄分が少ないのが特長です。ただし引火点が低いので、取り扱いには注意が必要です。

つぎはLESSON55 気体燃料を学習します。

LESSON55 気体燃料

ここでは気体燃料の特徴と種類を学習します。
▲気体燃料の特徴

気体燃料は硫黄や灰分がほとんどなく、環境汚染防止の点からもクリーンなエネルギーとして利用されています。メタン等の炭化水素を主成分とし、水素や一酸化炭素等を含有する種類もあります。液体・固体燃料に比べ、成分中の炭素に対する水素の比率が高いのが特徴です。

[特徴]
○炭酸ガスの排出量が少ない
成分中の炭素に対する水素の比率が高いので、同じ熱量を燃焼させた場合は、二酸化炭素の発生割合は、石炭の約60%、液体燃料の約75%です。

○クリーンエネルギーです
硫黄、窒素分、灰分が少ないので、伝熱面、炉壁を汚染することが、ほとんどありません。バーナの閉塞、摩耗、汚れ、作業環境の汚れも少なく、公害防止対策等にも有効です。

○燃料コストが割高
液体燃料に比べ、配管口径が太く、配管費、制御機器費等の経費が高くなり、コストが割高になります。

○ガス中毒、爆発の危険
炉内にガス漏れがあっても、目視ではわかりづらく、点火のときには十分な換気、ガス漏れ検知に注意をはらうようにします。
▲気体燃料の種類

気体燃料には大きく分けると、天然ガス、油ガス、液化石油ガス、石炭ガス、高炉ガスがあります。主にボイラー用に使用されるのは、天然ガス(都市ガス)、液化石油ガス(LPG)があります。特定のエリア、工場で使用される気体燃料は、製鉄所、石油工場の副生ガスがあります。

気体燃料の発熱量と性状例


○天然ガス(都市ガス)
一般的に、天然に発生するガスの中で、炭化水素が主成分の可燃性のものを天然ガスといいます。産出する場所によって、ガス田ガス、炭田ガス、油田ガス等の名称で呼ばれます。地中のガス層の状態、性質により、湿性ガス、乾性ガスに大きく分類されます。湿性ガスはメタン、エタン、プロパン等の液化しやすい主成分が中心です。天然ガスのほとんどはLNG(Liquefied Natural Gas)として、輸入され、天然ガスを産地で精製後、常圧で−162℃に冷却し、液化したものです。
都市ガスの原料はほとんど天然ガスからです。高発熱量は46MJ/m3Nに調整され、空気に対する比重は0.66と軽いのが特徴です。貯蔵用の敷地も必要ないことから、都市部を中心に普及しています。

○液化石油ガス(LPG)
石油精製のときに、副産物の石油系炭化水素ガスに、常温で圧力を加えて液化したものをいいます。貯蔵、輸送がしやすく、家庭用、工業用、業務用として広く利用されています。
家庭用にはプロパンとブタンの混合ガス、工業用ではコスト面からブタンが多用されています。ボイラー用燃料としては、小容量ボイラー、点火バーナ用として用いられ、プロパンガスと呼ばれています。

○油ガス
石油類の分解によるガスの総称です。COを含み、有害なため都市ガスとして利用するときは、COと水蒸気を作用させ、CO2とH2に変えます。発熱量は20.9〜41.9MJ/w3Nです。

○石炭ガス
石炭を1000℃前後で乾留※して得られるガスのことです。都市ガスの製造、製鉄所でのコークス製造のときの副産物で、コークス炉ガスまたは乾留ガスといいます。発熱量は20MJ/m3N程度です。

※乾留とは固体を密閉して加熱し、その成分を分解して揮発成分を取出すこと

○高炉ガス(製鉄所副生ガス)
製鉄所の溶鉱炉(高炉)から副産されるガスで、CO、CO2を多く含みます。発熱量は約3.8MJ/m3Nと極めて小さいのが特徴です。

次はLESSON56 固体燃料について学習します。

LESSON56 固体燃料

固体燃料は天然に産出されたもの(石炭)と、加工されたもの(練炭)に大別されます。
▲石炭

ボイラー用としては石炭が最も多く利用されています。固体燃料には、石炭のほかにコークス、練炭(加工炭)等があります。石炭は太古の植物が地下に埋没され、長い年月の間に酸素分を減少させ、炭素分の多いものに変成したものといわれています。埋没時の条件、変成期間、変成中の周囲の条件等によって、石炭は無煙炭、歴青炭、褐炭等に分類されます。無煙炭は水素、酸素は少なく、ほとんど炭素でなりたっています。これは石炭化作用といい、炭素化する進行の度合いを石炭化度といいます。

○石炭の成分と燃焼に及ぼす影響
石炭の主成分は固定炭素で、石炭化度の進んだものほど、多く含まれています。固定炭素は、コークスや炭のように「燠」となって表面燃焼します。着火性はよくありませんが、発熱量が大きく、長時間燃焼します。
石炭の成分は下記のようになっています。


石炭の質は燃料比の数値が高いほど良質になります。
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○揮発分
石炭の揮発分は、炭化度の進んだものほど少なくなります。石炭が炉内で加熱されると、先に揮発分が放出され、長炎となって燃焼します。

○硫黄分
硫黄が燃焼すると二酸化硫黄になり、ボイラーの腐食及び大気汚染に有害な影響を及ぼすことは、重油の場合と同様です。

○灰分
灰分は不燃分で、これが多いと石炭の発熱量を減らします。灰分の多いものまたは灰が溶解してクリンカ※になるものは、燃焼に悪影響を及ぼします。石炭中の灰分の量は約10%〜20%です。
※クリンカとは鉱物質が半溶融状態で焼き固まった塊。

○湿分と水分
石炭の表面に付着している水分のことを湿分と言います。湿分は粒度が細かいほど多い傾向にあります。石炭の内部に吸着、凝着している水分のことを、水分(吸着水分)といいます。水分は褐炭で5〜15%、歴青炭で1〜5%です。湿分と水分の合計を全水分といいます。

次はLESSON57 特殊燃料を学習します。

LESSON57 特殊燃料

液体燃料、気体燃料、固体燃料以外の燃料を、特殊燃料として区分しています。特殊燃料には、廃棄物がほとんどで、発熱量は水分の含有量により大きな差がありますが、全体的には小さくなります。大きく分類するとバガス、バーク、黒液、廃棄物になり、さらに廃棄物には都市じんかい、工業・産業廃棄物、廃タイヤ、固形化燃料に分類されます。
●廃棄物

廃棄物を燃料として利用したもので、家庭ゴミ、工業・産業廃棄物、廃タイヤ、固形化燃料等に分類されます。

○都市じんかい(家庭用ゴミ等)
都市じんかいには易燃物、難燃物、不燃物等が混在し、それらの混合割合や発熱量には大きな差があります。発熱量は大都会のゴミで3〜10MJ/kg程度です。都市じんかいは自治体で運営する清掃工場の焼却炉で焼却され、その発熱量は発電又は自家消費の熱源として利用されています。
○工業廃棄物・産業廃棄物
工業廃棄物・産業廃棄物は都市じんかいと比べ、発熱量は大きくなります。石油類が原料のものは、40MJ/kg程度のものまであります。大規模の工場ではボイラーの燃料として使われています。
○廃タイヤ
石油から製造されているので、発熱量が比較的大きく、33.5MJ/kg前後ですが、硫黄分を含んでいますので、燃料としては、注意する必要があります。廃タイヤの燃焼方法は2通りあり、廃タイヤをチップにして燃焼させる方法と、廃タイヤをそのままガス発生炉に投入し、発生した可燃ガスをボイラーの燃焼室に送り、燃料とする方式があります。

古タイヤ


○固形化燃料
一般家庭ゴミ(水分50%前後)を乾燥させ、固形化し、成形した燃料をRDF(Refuse Derived Fuel)といい、発熱量は16〜20MJ・kg程度になります。産業廃棄物では生活ゴミと比べて、水分は10%程度で低く、乾燥工程なしで固形化、成形されます。これをRPF(Refuse Paper and Plastic Fuel)といいます。
●バガス(砂糖きびのしぼりかす)

製糖工場で処理した砂糖きびから糖汁をしぼったかすをバガスと呼びます。製糖工場で大切な燃料になります。水分は50%前後、発熱量は11.5MJ/kg程度です。


●バーグ(樹皮)

バーグとはパルプ工場で処理した原木の皮(樹皮)のことです。ボイラーの燃料として使用され、水分は50〜60%含んでいます。発熱量は7.5〜14.5MJ/kg程度です。


●黒液

パルプの製造過程で木片(チップ)と薬品(ソーダ)を容器内で煮て、木質部を溶解し、繊維を分離してパルプを製造するときに、排出される黒色の液体を黒液と呼んでいます。黒液は水分を80〜85%含んでいますので、これを真空蒸発器で濃縮して60〜75%の固形分にしてボイラーで燃焼させ、同時に薬品を回収します。黒液の乾燥状態の発熱量は12.5〜16.0MJ/kgです。

ここまでは燃料の種類、特徴、注意点等を学習してきました。
LESSON58では「燃焼方式と燃焼装置について学習します。